[3分で読むTED] 依存とは | ガボール・マテ

親子関係
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ガボール・マテ
カナダの医師で、末期症状、薬物依存、HIV患者の専門家。ADD、ストレス、慢性疾患、親子関係についての著書やコラムで有名な作家でもあります。

今回のTEDでは「薬物や権力への依存」をテーマに語っており、依存に対する処方箋として「自分の本質を見出し、自分に優しくすること」と寛容なメッセージを送っています。

The Power of Addiction and The Addiction of Power: Gabor Mate at TEDxRio+20

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 5分で読める”まとめ” 

依存症患者の姿を見たら、「人間の体ほど、悲しい人生を克明に記録するものはない」という、ある作家の言葉を思い出します。

すべてを失っても、彼らが依存から足を洗うことはありません。なぜ依存には、それほどまでに「強い力」があるのでしょうか。

「死ぬことより、生きることのほうが怖い」と私の患者が語っていましたが、我々は「なぜ依存症患者は生きることを恐れるのか」と考えるべきなのです。

そして、依存症を理解する際は依存の悪い点ではなく、「依存しなければ得られないもの」という「依存の良い点」に目を向けなければなりません。

依存症患者が得ているのは「痛みからの解放」であり、薬物やアルコールには鎮痛(痛みを和らげる)作用があります。

つまり、「なぜ依存するのか」ではなく「なぜ痛むのか」が、依存症における真の問題なのです。

ローリング・ストーンズのキース・リチャーズは、重度のヘロイン患者でしたが、「依存とはすべてを忘れること。数時間は自分じゃない感覚が味わえる」と語っています。

私にはその気持ちがよく分かります。自分という存在に対する不快感も、自分から逃げ出したいという欲望も分かります。

イギリスの精神科医ロナルド・D・レインは「人間が恐れるのは、死、他人、そして自分の心」と言いましたが、長いこと私は「自分の心」から目を背けてきました。

向き合うのが怖かったのです。仕事に逃げ、クラシックCDの買い物依存症になり、買いたくなくても店に行かずにはいられませんでした。

ある時、陣痛に苦しむ女性を病院に残してCDを買いに出てしまい、結局出産に間に合いませんでしたが、帰宅後そのことで妻に嘘をつきました。

嘘をつくのは依存症の特徴です。そして、仕事と音楽に取り憑かれていた私は、子どもたちを無視しました。

私には「自己からの逃避」がどんなものか分かるのです。我々は誰もが空虚感を抱えていますが、依存とはまさに、空虚感を外から埋めようとすることです。

依存症患者は人生を通じて虐待されており、生まれた時から虐待の日々です。繰り返し心を傷つけられたことが「痛みの理由」です。

また、養育環境が「脳の発達」に影響するという別の理由もあります。

一つ目は、報酬とやる気の作用があるドーパミンです。ドーパミンが分泌されるのは、私たちがやる気になった時や興奮したり、興味が湧いた時。ドーパミンが無ければ、やる気が起きません。

薬物を注入すると、依存症患者の脳ではドーパミンの放出が見られます。しかし、薬物そのものに依存性はないのに、なぜ一部の人は依存症になりやすいのでしょうか。

二つ目は、脳内にあるモルヒネ様の物質エンドルフィンで、我々が持つ天然の鎮痛剤です。モルヒネやエンドルフィン類によって、親への愛着心や親から子への愛着心を感じることが可能になります。

乳幼児のうちに、暮らしの中で「愛や繋がり」を感じていないと、こうした脳の重要な回路が正常に発達しません。依存症患者は、薬物によってようやく調子を取り戻し、痛みが和らいで愛を感じられるようになるのです。

さて、患者たちほどではないにしろ、私も空虚感を抱えていました。1944年ハンガリーのブタペストでユダヤ人家庭に生まれた私は、母親が感じているストレスや恐怖や絶望に気づいていたのです。

当時の私は「自分はこの世で望まれていない」というメッセージを受け取っていました。私が母のそばにいても母が幸せでないのなら、母には私を求める気持ちがないに違いありません。

のちに私が仕事中毒になった理由は、気持ちとしては求められずとも、私を必要と思ってもらえるからです。有能な医者になれば、皆が私を必要としてくれます。

そうすれば、最初に感じた望まれていない感覚の埋め合わせができると考えたのです。しかしその結果、私の子どもたちは私のときと同じく「自分は望まれていない」と感じていました。

こうして我々は、自分が受け取ったメッセージやトラウマや苦痛を無意識のうちに、次の世代へ伝えてしまうのです。結局のところ、空虚感は幼い頃に得られなかったものに端を発しています。

一方、殺害や虐待を行う人間は、より強大な力を手に入れたいがために、権力に依存し、富に依存し、獲得することに依存しています。

歴史上の権力者であるアレクサンダー大王やナポレオン、ヒトラー、スターリンは、全員とても背が低く、中心地域以外からの”よそ者”だったため、本質的に不安や劣等感があったと考えられます。

彼らが力を必要としたのは「自分は大丈夫だ」と感じ、自分を大きく見せるため。権力への依存とは、空虚感を外から埋めようとすることです。

その反対に釈迦やキリストは、「壮大な力を授けてやる」という悪魔のささやきを断っています。なぜなら彼らは、自分の内に力を持っており、力を外に求める必要がないからです。

キリストは「力と本当の姿は、あなたの外ではなく内にある」「神の国は人の心の中にある」と説きます。釈迦は入滅に際し、「自らの内に灯明(とうみょう)を見つけ、自らを灯し、その中に光を見出しなさい」と説きました。

権力者とは往々にして、誰よりも深い空虚感に苛(さいな)まれている人です。我々は自らの内に光を見出し、コミュニティや自らの英知や創造性のなかに、光を見出さなければなりません。

人間の本質とは、実に協力的で実に寛容で、社会への貢献を目指すもの。もし皆さんが自らの内に光を見出し、自分らしさを見出せたら、我々はもっと自分に優しくなり、自然に対しても優しくなれるでしょう。

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